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仙台高等裁判所秋田支部 昭和53年(ラ)20号 決定

抗告人

藤岡晴義

藤岡淑子

相手方

大成株式会社

右代表者

室富克己

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。」というのであり、その理由の要旨は、次のとおりである。

1  申請外室富克己は、長年にわたり代表取締役印を悪用し、取締役の偽造印により株主総会議事録を偽造して法務局に届出をし相手方会社代表取締役を僣称してきたもので、相手方会社は、株主総会を一度も開催しない。株主総会を一度も開催しない会社に対して、株主である抗告人が検査役の選任を請求することは、商法によつて認められている当然の権利である。すなわち、株主として会社代表取締役及び取締役の責任を追及することは、株主の共益権の行使として商法によつて認められているところであり、その前提としての検査役選任の申立ては、必要不可欠である。

2  相手方会社代表取締役室富克己は、株主に株券の引渡を拒否し、自宅を会社本社とし、相手方会社の会計の帳簿及び書類を秘しているので、抗告人らは、その閲覧の方法もない。

3  抗告人藤岡晴義は、監査役として届出がされているが、同人の承諾を得ていないのみならず、同人は一度も株主総会に招集されたことはなく、監査したこともない。そして右室富克己は藤岡晴義の偽造印鑑をもつて会計報告の監査を偽装している。

4  右室富克己は、前記のとおり業務執行者としての権限がないのに、相手方会社所有の土地、建物、電話に至るまで総ての財産を同人の妻せつ子と共に奪い、土地、建物については、株主総会も開催せず、特別決議もなしに、右せつ子との間に売買契約を締結し、同人に対し売買予約の仮登記を経由している。

5  相手方会社代表取締役室富克己は、相手方会社の会計の内容を一切株主に知らさず、赤字操作をしている。

6  相手方会社の役員は、株主総会の決議によらずに勝手に役員報酬を取得している。

7  相手方会社代表取締役室富克己は、株主総会を開催せずに勝手に定款を変更し、株式の譲渡制限の規定等の設定変更の届出をしている。

8  以上のとおり、相手方会社代表取締役室富克己は、枚挙にいとまのない程、相手方会社の業務の執行に関し不正の行為や法令、定款に違反する行為をしており、商法を遵守する意思は全くないものである。抗告人らは、会社財産に回復し得ざる損害が発生するのを防止するため、いわれなき損害を与えている実態の調査を求め、代表取締役室富克己と取締役であるその妻せつ子の責任を追及し、会社財産を回復し、会社及び株主の利益を擁護しようとするもので、本件申立ては、理由があるものと確信する。しかるに、原決定は、種々不当な理由を付して申請を却下しているので、本件抗告に及ぶものである。

二当裁判所の判断

抗告人らの主張する検査役選任の事由につき順次判断するに、抗告理由1については、株主総会を開催しないこと及び不開催にも拘らず株主総会議事録を作成して法務局に届出をしていることは、それ自体では必ずしも商法第二九四条に基づく検査役選任の事由となるものではないと解するのを相当とする。けだし、少数株主の検査役選任請求権は、違法不正な業務執行によつて会社財産に損害が及ぶことを防止する趣旨から認められているものであるから、会社の経理財産に直接に関係のない事項については行使することができないものと解するのを相当とするところ、抗告人らの主張する抗告理由1の事由のみをもつては、直ちに会社財産に影響を及ぼすものということはできないからである。

抗告理由2については、抗告理由1についてと同様に検査役選任の事由となるものではないと解される。のみならず、抗告人ら主張の事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて本件記録によれば、相手方会社の株式総数は五〇〇株で現在は株券は発行済で抗告人らにも交付してあること、抗告人らは相手方会社に対し帳簿、書類の閲覧を請求したことがない事実が認められ、相手方会社において抗告人らに対し帳簿、書類を秘しているものではないことを窺うことができる。

抗告理由3については、本件記録によれば、抗告人藤岡晴義が相手方会社の監査役とされていたのは、昭和五〇年二月二七日までであり、同月二八日からは室富愛子が監査役に就任している事実が認められるので、抗告人ら主張の事由は、相手方会社において現在違法不正な業務執行がなされていることを疑わせる事由たり得ず、検査役選任の事由となるものではない。

抗告理由4については、本件記録によれば、相手方会社所有の土地、建物について、相手方会社代表取締役室富克己の妻である室富せつ子に対し昭和五二年三月一日売買予約を原因として同年四月一六日所有権移転請求権仮登記を経由した事実が認められるが、同時に、右売買予約は、真実締結されたものではなく、相手方会社が株式会社宮崎合名社との右建物についての賃貸借契約を解除する手段として締結した形式をとつた架空の契約であつて、右仮登記も昭和五三年七月四日抹消されていることが認められるので、会社財産に損害を及ぼすような違法、不正な業務執行がなされたものということはできない。なお、本件記録によれば、相手方会社所有の電話を第三者に売却した事実が認められるが、これのみをもつて検査役選任の事由とすることができないことは当然というべきである。

抗告理由5については、本件全証拠によるも抗告人ら主張の事実を認めることはできない。もつとも、昭和五〇年二月一日相手方会社作成の利益処分計算書に対する監査は、当時の監査役であつた抗告人藤岡晴義のあずかり知らぬものであることが本件記録上認められるが、同会社は前記認定のとおり同月二八日に監査役が交替し、爾後室富愛子が監査役に就任しているのであるから同会社において現在違法不正な業務執行がなされている事由たり得ず、検査役選任の事由とはならない。

抗告理由6については、本件記録によれば、相手方会社は、現在代表取締役である室富克己に対し月額一〇万円、常勤の取締役である室富せつ子に対し月額金五万円を役員報酬として支払つており、相手方会社の給料受給役員は右二人だけであること、右役員報酬の額は、昭和五三年二月二八日開催された相手方会社の株主総会で決定されたものであることが認められるので、抗告人らの主張は採用できない。

抗告理由7については、抗告理由1についてと同様検査役選任の事由となるものではない。

以上のとおり、抗告人らが検査役選任の事由として主張する抗告理由1ないし7については、いずれも採用することができない。そして、本件記録を精査するも、他に原決定を取り消し、検査役選任の申立てを認容すべき事由は見当たらない。

よつて、原決定は結局正当であり、本件抗告は理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条第一項を各適用して主文のとおり決定する。

(中島恒 吉本俊雄 相良朋紀)

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